2005年03月02日

七夕とお姉様

「美佐子様、買って参りました」
そういって使いの忍者は美佐子が掛けている机の上に紙の束を置いた。
紙幣より一回り大きい感じの紙で、色は何色もある。
「よし・・・じゃあ取り掛かるから静かにしててね」
「承知しました」
美佐子はいつも新しい魔法を生み出すときの術書に使うペンを手にとって使いの男にそう言い放った。
それを受けると忍者の格好をしている男はすぐに部屋をあとにする。
「次は寿司とあれか・・・」
そうつぶやいて男は次のお遣いにとりかかった。

蜂乃は学校の帰り道、美佐子の家に向かう途中スーパーに寄っていた。
服はもちろん制服のまま。
手に持っている籠には、1.5リットルのジュースやお茶のペットボトル、お菓子がいくつか入っている。
「あ、また新しい味のポテトチップ出てるし・・・」
そういって商品棚に並んでいるポテトチップ(柚子胡椒味)を手にとった。
「ふ〜の」
不意に名前を呼ばれ背中の肉をつままれた。
「ぎゃあああ」
蜂乃は持っていたポテトチップの袋を落とし、その場から飛びのいた。
「ふ、ふう・・;」
さっきまでポテトをもっていた方の手で、つままれた部分をなでている。
「・・・それ全部自分で食べるの?」
蜂乃が下げているスーパーの籠の中身を見て、ふうと呼ばれた少女は半眼でこちらを見ている。
蜂乃と同じ制服だ。
彼女は蜂乃のクラスメイト。よく行動を共にしている。
子どもっぽい蜂乃をいつもやさしく見守ってくれ、蜂乃は彼女をとても信頼している。
「ち、違うよ!;一人じゃない!;」
「ふぅ〜ん・・・」
とまだ疑っているような顔でにやつき、
「そんなのばっか食べるとまた・・・」
そう続けてさっき蜂乃の背中をつまんだ指を再びつまむ動作を見せてきた。
「ぐ・・・だって、新しい味が出るから・・・」
そう苦笑いして答える。
「部活で汗ながしてるからいいけどね・・でも、最近帰りはやい日があるみたいじゃない?どこいってるの?」
ふうは一連の動作で顔の前にきた長い髪を、手でかきあげ体の後ろへ回している。
「んー・・・ば、バイトかなぁ・・」
蜂乃は視線をそらした。
「なんの?」
焦っているのに気づかれたのか、ふうはまたにやっとしてすぐに続ける。
「(魔法の実験台とか言えないよねぇ・・というか信じてもらえない・・・)なんていうのかなぁ・・・研究のお手伝い・・みたいな」
正直に答える必要はないのだが、蜂乃はそれができない。
「ふ〜ん・・・・そっか!」
ふうはそこで話を切り上げた。
これ以上聞かれると、蜂乃がどうにも困ってしまうことをわかっているのだ。
「う、うん(ごめんね><いつか話せるときに話すよ・・!)」
いつかふうには話したい、それは本音だ。
「あれ、ふうはなんでここに?」
逆に聞き返した。
「私もバイトに行く途中だったんだけど、ここに入る蜂乃が見えたからw」
「なるほどー、ふうバイトなんだっけ?」
「料理の配達だよ〜、出前専門のとこ」
いつの間にかお菓子コーナーから2人はレジへ向かって歩いている。
気が付けばふうは、肩に道着入れと細長い袋をかけている。
細長い袋の中は弓。
ふうは学校の弓道部に所属しているのだ。
「じゃあまたねー!」
「じゃ、また明日ね〜」
レジを通る必要のないふうは手を振って店の出口へ向かった。
「あ!ふうー!」
それを呼び止める蜂乃。
「ん?」
「もし、七夕の短冊に願いを書くとしたらなに?」
「ん〜、『みんな仲良く』かな」
「わかった!」
笑顔で答えるふうを蜂乃は見送った。
そう、今日は七夕。
蜂乃は美佐子と一緒に星を見る約束をしている。
そして籠の中身を精算し、美佐子宅へ足を向けた。空は暗く落ち、ところどころに小さな光が輝く。
美佐子は街の小さな山にある竹やぶの前に居た。
「準備万端・・・早く2人とも来ないかしら」
竹やぶの前にはシートが広げられ、そこに先ほど妹のお店より配達された寿司が並べられている。
シートの近くには、竹やぶの中から1本の竹がほかのそれより低い位置に葉を広げている。
どうやら人為的に曲げられているようだ。
円形のお盆に円形におかれていたはずが、一部欠けている。
すでに美佐子はいくつか食べてしまったようだ。
「おねーさまーーー!」
そこへふのの声が遠くから近づいてきた。
「ふのちゃーん!いらっしゃい!」
お菓子などが入った袋を持って駆け寄ってきたふのを歓迎する。
「はぁっ、はぁっ、ちょっと迷っちゃいましたー」
「ふふふ、ふのちゃん方向音痴だったっけ。あいつに案内させればよかったわね」
ふのはシートの上に荷物を置き、
「忍者たんはまだ来てないんですかー?」
「ん、いいわよ、先始めちゃいましょ!」
「はーい!」
と2人がシートに座ったとき、
「こらああああ!」
黒い影が山の崖側から飛び出してきた。
「お、忍者たん」
「ふん」
「いまはじめようとしてなかったですか!?」
忍者と呼ばれた男は、息を荒げて美佐子に近寄る。
「うるさいわね、そんなことあるわけないじゃない。それよりアレ、もってきたの?」
「・・・もってきましたが・・」
忍者は納得がいかない様子で、手に持っていたひょうたんを渡した。
表面は朱色で仕上げられており、月の明かりを跳ね返し軽い光沢を放っている。
「よし、じゃあはじめましょう」
美佐子は受け取るとプラスチックのコップに中のものを注いだ。
「忍者たん、あれなーに?」
ふのは忍者にこっそりと聞いた。
「『どぶろぐ』、お酒だ。美佐子様は普段は下戸だが七夕のときは必ずアレを飲まれるのだ」
「ふーん・・・」
「さ、2人ともはじめるわよー♪」
美佐子は待ちきれない雰囲気を出している。
「はーい♪」
ふのはさっきの席にもどり、コップを両手でもち美佐子に向けた。
「ん、ふのちゃんも飲みたいの?」
美佐子はどぶろぐを手にもつ。
「アホかッ」
忍者がふのの手を手刀で崩す。
「あうっ」
コップが落ちふのが声をあげる。
「なにすんだー!!」
「なにを言ってるんだおまえは!!未成年だろーが!!!」
「・・・ッ!!だからなに!」
「法律で禁止されてるだろーが!」
「あら、そうなの?じゃあしょうがないわね」
「うう・・」
ふのはあきらめてオレンジジュースにした。
「美佐子様も住んでしばらく経つのですから、少しはこの国の法律を覚えてください・・」
「はいはい、・・・・じゃ、いいわね。かんぱーい♪」
「かんぱーい♪」
3人は織姫と彦星の下で宴会を始めた。

「このお寿司おいしー!」
「レナ様の料理はどれをとっても天下一品だ」
「う"−どぶろぐはきくわ・・・」
3人は料理、酒、日常生活のことを交えながら宴会を勧めた。
1時間ほど経ち、寿司の残りもなくなりはじめる。
そこで、
「2人とも・・そろそろ例のやつ行くわよ」
美佐子が立ち上がった。
「はっ」
「らじゃ」
美佐子に続き立ち上がる。
「ふのちゃん持ってきたかしら?」
「もちです!」
ふのは自分のかばんから紙を2枚取り出した。
「えへへ、2枚もです」
「あら、それだけでいいの?」
美佐子とふのの言葉が微妙に食い違うが。
美佐子は忍者に手を差し出し、自分の分を受け取った。
美佐子には10枚ほどの紙が渡されたが、忍者の手にはティッシュの箱をもっているかのような影が見て取れる。
さらにその下にもそれがいくつもある。
「じゃ、竹にくくりつけましょうー!」
七夕のイベントとしてはかかせない、『願い事を短冊に書き竹にくくりつける』がはじまったようだ。
「お姉さま・・いっぱいですねー・・」
「そうかしら。これくらいやらないと願いは叶わないと思うわよ。人間は多いんですもの」
人為的に曲げられた竹に2人はそれぞれ短冊をかける。
ふのは2枚をしっかりととりつけた。
忍者は美佐子に任された数千枚はあると思われる短冊をすごい速さでとりつけている。
「魔法で複製は出来るんだけどもね。この数は精神力つかったわ」
「あはは・・」
ふのは苦笑いでしか対応できなかった。

30分ほどして
「お、終わりましたっ!」
忍者が美佐子の短冊を取り付け終わらせたようだ。
「ご苦労様」
「お疲れさまー」
2人はふのが買って来たお菓子などを食べて忍者の作業が終わるのを待っていたようだ。
ふのは忍者に耳打ちをした。
「忍者たんはなにも短冊用意してないの?」
「いや、実は1枚だけ自分のをくくりつけておいた」
「おー、なんて書いたの?」
「うむ、美佐子様にやさしくしてほし・・って何を言わせるんだ!!」
忍者は照れてふのから飛び離れた。
「ぷぷ」
「クロ!この竹もとに戻しなさい」
美佐子がいまさっき短冊を取り付けた竹を親指で差した。
あせっていた忍者は「はっ」と返事をしすぐに竹の根元へ向かう。
どうやら根元に近いところを何かの道具で折り曲げていたようだ。
忍者はその道具を動かし、ゆっくりと竹を戻した。
「ゆっくりやらないと竹の反動はすごいからな・・・。短冊が取れてしまったら大目玉だ」
なんとか忍者は無事にやり遂げた。
そしてその道具をはずし、
「む・・長時間曲げていたために少し弱っているな。元の高さには戻らないか。すまぬ」
弱った竹に謝罪をする。
「あとで応急処置をしてやろう」
と竹のひびが入っている部分をぽんぽんっと軽く叩いた。
竹が高くあがったのを確認すると美佐子は空に向かって叫んだ。
「よしよし、七夕よ!私の願いを叶えるのよ!」
続けてふのは、手を握り合わせて空に叫んだ。
「あたしのお願いも聞いてくださーい!」
その様子を見ていた忍者は笑いながら短冊を見上げた。
竹の葉をも凌ぐ短冊の量。
「・・・美佐子様の場合・・・逆にばちが当たるのでは・・」
そういった瞬間

ミキッ

っと何かの音がした。
「む・・・なんだ?」
どうも観ている短冊が少しずつ下がっているように思える。

メキメキッ

再び音が聞こえる。
さらに短冊が下がっている。
「ま、まさかっ;」
忍者ははっとして竹の根元を見た。
道具を取り付けひびが入っていた部分が今にも折れそうだ。
「まずいッ!!;」
忍者は竹に駆け寄り抱きとめた。
・・・が

バキッ

っと忍者がつかんだ瞬間、最終的な音がして竹が1本ではなくなった。
「美佐子様ーーー!!」
後ろにいるであろう美佐子を叫んだ。
空への願いを終えてシートに戻ろうとしていた2人は、その声の方を向いた。
「どうしたのかしら」
「なんでしょー?」
疑問に思い足を止めた。
その瞬間、

「うわあああああ」
バサーーーーーーっ
「ぎゃあっ」
みしっ
ドシーンッ

という音が一気にふのの耳に飛び込んできた。
「へ・・?」
ついさっきまで右前方にあった美佐子の姿はなく、下に竹の葉や短冊が広がっている。
「美佐子様ー!」
忍者が駆け寄ってくる。
「ど、どうしたの忍者たんっ;」
「それが、竹をずっと曲げたまま固定しておいたせいで竹が弱ってな・・・折れてしまったのだ。それに気づき抱きとめたのだが・・さすがに竹の重さに耐えられず倒れてしまったのだ・・」
「うわー・・・」
「で、美佐子様は!?」
忍者が一番心配しているのはそこだ。
「たぶん・・・あの下・・・?」
ふのが竹の葉と短冊のじゅうたんを指差した。
「むーーー!」
っとその方向から声が聞こえる。
「まさか下敷きに・・・っ;美佐子様ー!」
「お姉さまー;;」
忍者とふのが声の主に走りよる。
「むむーむむむー!」
その途中で再び声があげられ、竹や短冊の下から放たれた炎がそれらを吹き飛ばした。
美佐子に向かっていた2人は足を止め、よろっと立ち上がる美佐子を見つめる。
「くーろー・・・!!」
美佐子の怒りが聞こえる。
少し鼻声なのは、どうやら竹が顔面をとらえ鼻を打ったようだ。
「ひっ・・・けして拙者のせいでは・・・」
逃げ腰になりながらも、必死に弁解をする忍者だったが、
「もんどうむよほー!」
と再び炎が美佐子から放たれ、七夕の星空に忍者が舞った。
「あはは・・・忍者たんの願い、叶わず・・・」
短冊もろとも燃え散った忍者を見て、ふのはつぶやいた。
posted by Vespa at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 設定作り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
隠し更新発見!?

七夕のときのお話ですね!
Vespaちゃんにはお世話になりました〜

日本人はもっと七夕の風習を大切にするべきだと思うんです。
『七夕』って素敵な風習だと思うんだけどなー…
Posted by MISA at 2005年07月28日 02:29
お姉様しー!しー!
まだ内緒です!
あのときのを元に現代編としてリメイクです。
あたしは七夕祭り行きましたよ!
Posted by ふの at 2005年07月28日 17:41
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